東京高等裁判所 昭和35年(ラ)799号 決定
一、記録によれば、次のことが明らかである。すなわち、抗告人が横浜地方裁判所横須賀支部に対し相手方藤本紀一ほか四名を被申請人として、同人らのオリオンタクシー株式会社における取締役または監査役としての各職務の執行停止ならびに職務代行者選任の仮処分命令を申請したところ(同庁昭和三十五年(ヨ)第六三号)、同裁判所は、右申請を容れ昭和三五年九月二六日、申請人(抗告人)がオリオンタクシー株式会社に対して同裁判所に提起せんとする臨時株主総会決議無効確認訴訟事件の本案判決確定に至るまで、被申請人らがそれぞれ同会社の取締役または代表取締役あるいは監査役としての職務を執行することを停止し、右職務執行停止中逗子市逗子八一〇番地弁護士南慎一郎に同会社の取締役兼代表取締役たる職務を代行させるとともに、弁護士岡野博一ほか三名に同会社の取締役たる職務を、山本保雄に同会社の監査役たる職務をそれぞれ代行させる旨の仮処分決定をした。そこで、被申請人藤本紀一ほか四名は、同年一〇月三日右仮処分決定に対し異議の申立をした(同庁昭和三十五年(モ)第二二三号)。ところが右異議事件は同月六日横浜地方裁判所に回付され(横浜地方裁判所昭和三十五年(モ)第一四八〇号)、同月一二日に至り被申請人ら代理人から、代表取締役職務代行者南慎一郎にはその代行事務を横山寿に委任し、また会社の緊急事態に際しその職務を放棄するなど代行者として適任でない数々の行為があるので解任されたい旨の上申がなされたところ、同裁判所は、南慎一郎および岡野博一を審尋したうえ、職権で、昭和三五年一〇月一三日、その地位にとどまることを適当としない事由があるという理由で、南慎一郎に対しオリオンタクシー株式会社の代表取締役職務代行者たる任務を解く旨の決定をした。
原決定が以上のような経過でなされたところをみると、原審は裁判所が一旦選任した職務代行者を不適当であると認めるときは、職権でその選任を取り消すことができるものと解釈して原決定をなしたものと認められる。しかしながら商法第二七〇条の規定は、従来民事訴訟法の定める仮処分として認められていたものを明文化したものにすぎず、その手続も当然民事訴訟法上の仮処分の規定に従うべきものと解するのが相当である。もつとも同条第二項には裁判所は当事者の申立により仮処分を変更しまたはこれを取り消すことができる旨規定されているが、その要件手続等については何らの規定もないのであるから、その手続は同様仮処分に関して定められた法律の規定によるべきものと解釈しなければならない。右商法第二七〇条第二項の規定があるからといつて同条が特殊な仮処分手続を定めたものということはできない。したがつて、原決定は民事訴訟法に定める仮処分決定に対する不服申立に関する規定によつていないことが明らかであるから不適法として取り消すほかはない。
二、なお、本件抗告が民事訴訟法第五五八条による即時抗告であることは、抗告状の記載によつて明らかである。ところで、原決定はこれを同条にいうところの口頭弁論を経ずしてなすことを得る裁判と解することは困難である。しかしながら、抗告人の不服の理由は原決定の如き裁判は判決をもつてすべきで決定をもつてこれをする根拠がないと言うのでこの主張は正当であるから、本件抗告は民事訴訟法第四一一条に即り、通常抗告として許されるものとするのが妥当である。
(角村 菊池 吉田)